オンリーロンリーの思い出と
4年間住んだ静岡市を離れることになった去年の夏、慌ただしく引っ越しの準備をしていた時に、見つけた本があった。
ASKAさんの詩集「オンリーロンリー」。2冊並んだ本が、入りきらない本棚の上で埃をかぶっていた。
オンリーロンリーの思い出。
1冊は中学生の頃に近所の書店で購入して、もう1冊はその昔、93年の年末に福岡でコンサートに行った時に、私がファンであることを知った知り合いの方に頂いた。ASKAさんのサインとバックステージパス入りで、その方とASKAさんが一緒に写った写真まで頂いた。
知り合いだった方が実はASKAさんと交流があるとは本当にすごいことなはずなのに、当時の私はとても人見知りで、「ありがとう」としか言えなかった気がする。
「ASKAさんはどんな人だった?」とか、「ASKAさんとどんなこと話したの?」くらい聞けば良かったのに。本当に、貴重な機会損失だ。とよちゃん、元気にしているかな。
そんなことを思い出しながら、懐かしく詩集のページをめくった。そうそう、綺麗な挿絵を眺めながら、詩の世界を想像するのが楽しかったな。
しばらく挿絵を眺めているうちに、この絵の作風に、なんだか見覚えのあるような気がしてきて、絵を描かれている黒井健さんについて調べてみた。
そうしたら、あの絵本「ごんきつね」や「手袋を買いに」の絵を描かれている方だった。オンリーロンリーの挿絵はそれよりも前に描かれていたようだった。
嬉しくって娘に教えた。
「ねえねえ、この本知ってる?ASKAさんが昔書いた詩の本なんだけど。ごんきつねの絵を描いている人と同じなんだよ。ね、絵の感じが似ているでしょ!」
「ほんとだー。じゃあ読んで!」
「え、読む?この本を声に出して読むの?」
思わず聞き返してしまったけれど、娘は当たり前のように「うん」と言う。いつもの絵本読み聞かせと変わらないと思っているらしい。
なんだかちょっと気恥ずかしい気持ちになりながらも、いいよと言って読むことにした。
「ママね、好きな詩があったんだ。これこれ。」
久しぶりに開いた本だったけれど、すぐに見つけた。とても短い詩に、美しい夕暮れの風景が添えられているこのページ。
「何かをやらなくてはと
意気込んだ日に限って
時間は簡単に
過ぎてしまいます」
読み終えて、私は声をあげて笑ってしまった。
中学生の時もこれを読みながらそうそうって頷いていた私だったけれど、30年近く経っても何も変わっていない。
こんな私ってどうなんだ。
「ほんと、今日はこれをやろうって思っても、どうしていつも終わらずに一日が終わっちゃうんだろうね」
そんな会話を娘とした。
あれからもうすぐ1年経つけれど、やろうと思っていたことは、どうして、まだ出来ていない。
あの時の私はけらけら笑いながら話していたけれど、また明日やろうって思っていたけれど、このまま時間に置いていかれることを繰り返していたらどうなってしまうのか。
時間は消えてゆくのに。
ASKAさんは前へと進んでいるのに。
やらなくてはならない何かの意気込みを持って私はこの世に降りて来たはずだけれど、もしもやり遂げらないまま終わってしまったら?
思い残した想い達は、一体どんな形で生まれ変わるのだろう。
借りを作ったまま終わらせてしまうわけには、やっぱりいかない。
私のささやかな決意。
やりたかったことを、ひとつずつ形にしよう。
この場所におさまりたいのに、言葉に出来ないまま浮かんでいる断片的な想い達を、残らず言葉にしていこう。
そしてそこに立って見える景色を、見にいこう。
ありがとう、オンリーロンリー。